生き物は多くの場合一匹で生きていくことはできず、これは魚も例外ではありません。
その中でも、同じ分類に属する種以外に依存して生活することを「相利共生」「片利共生」といいます。
本記事では、両者の違いと該当する魚の事例を紹介していきます。
後半では混同しやすい「寄生」も解説しているので、ぜひ最後までご覧ください。
相利共生とは
まず最初に「相利共生」について解説します。
相利共生とは、異なる生き物がお互いに利益を享受しながら生活することを指します。
抑えるべきポイントとしては、利益を享受しあっているのは別々の種類の生き物である点です。
例えばイワシのように同じ種類の生き物がともに生活して利益を享受しているのは、単なる「群れ」と表現します。 ※イワシが群れる理由についてはこちら
あくまでも異なる生き物同士の利害が一致しているため、生活を共にする様を指す言葉であると覚えておきましょう。
魚の相利共生の例
相利共生は魚類でも多数見られます。
その中でも、ここでは代表的な2つを紹介します。
クマノミとイソギンチャク
魚に関する相利共生の代表例はクマノミとイソギンチャクの関係です。
クマノミは毒を持つイソギンチャクを住処として住む習性あり、それぞれの利害は一致しています。
クマノミにとっての利益は、毒を持つイソギンチャクに隠れることによって自身の安全を確保できることです。
通常の魚はイソギンチャクに触れると毒に当たることを知っているので、近付くことを避けます。
ですがクマノミは体表に特殊な粘膜を覆っており、イソギンチャクの毒に対する耐性があります。
したがって、外敵が近付いてきた際にイソギンチャクの中に隠れることで、捕食を逃れることができるのです。
対してイソギンチャクにとってクマノミを受け入れることは、①クマノミのエサのおこぼれを受け取れる、②成長が早くなる、という2つの利益を享受できます。
①に関しては、イソギンチャクは動き回ることができないので、エサを取ってきてくれるクマノミという存在は大きいからです。
また②に関しては、クマノミが住んでいないイソギンチャクよりも住んでいるイソギンチャクの方が、成長が2倍~3倍程度早くなったという研究の結果が出ています。
こちらの理由は諸説ありますが、結果的に成長しやすい環境が出来上がるのであればイソギンチャクにとっては御の字です。
ここからクマノミとイソギンチャクが共に生活することは、お互いに利益がある相利共生であることが分かります。
※より詳細なクマノミとイソギンチャクの相利共生についてはこちらをご覧ください。
ホンソメワケベラとウツボ
https://uminokodomo-photo.blog.ss-blog.jp/archive/201003-1
ホンソメワケベラとウツボの関係も、典型的な相利共生なので紹介します。
ホンソメワケベラは別名「クリーナーフィッシュ」と呼ばれ、自身よりも大きい魚(ウツボなど)の体表についている寄生虫や古くなった皮膚、口の中の食べ残しなどを取り除く習性を持ちます。
ウツボはヒトのように自身で体を洗うことができません。そこでホンソメワケベラに寄生虫などを食べてもらうことで体をきれいにすることができます。
そのためウツボはホンソメワケベラが近付いてきても決して食べることをせず、むしろホンソメワケベラが入りやすいように口を大きく開けて待つ姿勢を取ることもあります。
これはウツボを始めとした大型の魚は、「ホンソメワケベラは自信を掃除してくれる」と学習しているので、あえて捕食対象として見ていないのだと言われています。
一方でホンソメワケベラにとって汚れはエサとなるので、掃除をすること=捕食活動となります。つまり無理やり掃除をさせてられているのではなく、喜んで掃除しているということです。
このように、寄生虫などを食べてもらうことによって体がきれいになるウツボと、寄生虫を食べることによってお腹が満たされるホンソメワケベラの関係は、まさに相利共生であるといえます。
片利共生とは
次に「片利共生」について解説します。
片利共生とは、異なる生き物がともに生活するうえで、一方は利益を享受できるがもう一方には利益も害もないことを指します。
相利共生との大きな違いはどちらか一方には利益も害もない点。つまり利害の一致ではなく、片方のみ得をしていることになります。
ですが利益を享受していない側は損をしているかというとそうではなく、利益も害もないので片利共生をしていない状態と変わりません。要は片利共生をしてもしなくても生死に関わらないということです。
片方にとっては得、片方にとっては何も変わらない状態で共に生きている、という状態である点を抑えておきましょう。
魚の片利共生の例
次に、片利共生の関係にある魚の代表例を2つ紹介します。
コバンザメとジンベエザメ
コバンザメとジンベエザメの関係は、片利共生として非常に有名です。
頭部に吸盤があるコバンザメは、ウミガメやサメなどの海洋生物だけではなく壁などにも張り付くことができます。
その中でもよく張り付いているのはジンベエザメで、大きな体にくっついているコバンザメの写真や動画を見たことがある方は多いのではないでしょうか。
コバンザメがジンベエザメにくっつくことによる利益は、①労力をかけずに移動ができる、②ジンベエザメのエサの余りや寄生虫などを食べられる、の2点です。
「サメ」と名が付いていますが、コバンザメはアジやブリと同じスズキ目の仲間なので、捕食する能力に長けているわけではありません。
そのため、特に②の「ジンベエザメのエサの余りや寄生虫などを食べられる」というのは、危険を犯すことなくエサが食べられるという大きなメリットです。
対してジンベエザにとってコバンザメの存在は、特に害はないですがくっつかれるメリットもありません。
寄生虫を食べてくれるので体の周りをきれいにしてくれる恩恵があるように見えますが、これはなくても生死に関わることではないので利益とはいえません。
したがってコバンザメとジンベエザメの関係は、まさに片利共生といえます。
カクレウオとナマコ
片方が魚類、片方が他の種族である片利共生もあり、カクレウオとナマコの関係が有名です。
カクレウオとはカクレウオ科に分類される魚の仲間で小さく細長い体が特徴。その極細の体を利用して、ナマコやヒトデ、ホヤなど海の底で生活している生き物の体内に侵入する習性を持ちます。
そんなカクレウオがナマコの体内に侵入する利益は、外敵から身を守れることです。
単体で行動するよりもナマコの体内に身を潜めることで、小魚を捕食対象とするフィッシュイーターに見つかることがなくなります。
対してナマコにとってはカクレウオの存在は、隠れ蓑(みの)に使われるだけで何も恩恵はありません。
そのためカクレウオとナマコも片利共生の関係ということになります。
(補足)混同しやすい「寄生」について
ここまでで相利共生と片利共生の違いと定義はイメージできたかと思うので、最後に相利共生・片利共生と混同しやすい「寄生」について解説します。
寄生とは、異なる生き物がともに生活するうえで、一方は利益を享受できるがもう一方には害があることを指します。
特に寄生は片利共生と似ており混同しやすいですが、片利共生は利益がない側にとって無害なのに対して、寄生は利益がない側にとって有害な点で異なります。つまり、片方が利益を搾取している状態ということになるのです。
また生物学上は、この寄生される側の生き物を「宿主(しゅくしゅ)」あるいは「奇主(きしゅ)」というので、あわせて覚えておきましょう。
魚の寄生の例(ウオノエ)
魚に関係のある寄生の例としては、ウオノエが挙げられます。
ウオノエは「寄生虫」の一種で、幅広い魚に寄生するので釣り師はよく見かけるかと思います。また、2cm~5cmと寄生虫の中でも大きい分類で、見た目はダンゴムシに似ています。
そんなウオノエが魚に寄生する目的は、口の中や体表から栄養や体液を搾取するためです。
一方で宿主となる魚にとっては何のメリットもなく、むしろ栄養を取られるので害があります。結果、栄養失調や生育不良になってしまう魚もしばしば。
このようにウオノエにとっては栄養を搾取できる利益があり、魚には栄養を取られる害がある関係が寄生ということになります。
魚とアニサキスの関係は寄生?
加えて補足です。魚に潜む最も有名な寄生虫として「アニサキス」が挙げられることがありますが、こちらは厳密には「寄生」とは言い難いことが分かっています。
実はアニサキスが魚に寄生しても、ウオノエのように栄養を搾取しているわけではないので、魚には害が及んでいません。これを「待機寄生」といいます。
アニサキスとウオノエは同じ魚に潜む寄生虫なので紹介しましたが、害がないということで片利共生の関係と言えるかもしれませんね。
まとめ
ここまで相利共生・片利共生、そして寄生の3点を解説してきましたが、共通していることはどちらか一方には必ず利益があるということです。
相利共生には双方に、片利共生と寄生には片方に利益があるので、依存関係に発展してしまうのです。
しかし魚も人間も同じように、単体では生きていくことが困難ですよね。
そういった意味では、依存するのは賢い生存戦略といえるのではないでしょうか。
・相利共生とは、異なる生き物がお互いに利益を享受しながら生活すること
・相利共生の代表例は「クマノミとイソギンチャク」「ホンソメワケベラとウツボ(大型の魚)」
・片利共生とは、異なる生き物がともに生活するうえで、一方は利益を享受できるがもう一方には利益も害もないこと
・片利共生の代表例は「コバンザメとジンベエザメ」「カクレウオとナマコ」
・寄生とは、異なる生き物がともに生活するうえで、一方は利益を享受できるがもう一方には害があること
・寄生共生の代表例は「ウオノエと魚」