「海水魚のタイと、淡水魚のアユが同じ水槽で泳いでいる」と言われて信じることができますか?
原則、海水魚は海水で、淡水魚は川や湖などの淡水でしか生きられません。
そのため海水魚を養殖する場合は海のある場所で、淡水魚を飼育する場合は淡水域で養殖する必要があり、場所などに制約があります。
しかし、この常識を覆す素晴らしい飼育水が2006年に日本で発明されました。
この「魔法の水」を少しでも多くの方に知っていただきたいので、本記事で紹介していきます。
海水魚と淡水魚を同時に養殖できる好適環境水
2006年、海水魚と淡水魚を同時に飼育(養殖)できる画期的な水が発明されました。
この「海水魚は海水で、淡水魚は淡水で」という常識を覆した水のことを「好適環境水」といい、岡山理科大学准教授である山本俊政氏の手によって生み出されました。
海水にはおよそ60種類の成分が含まれていますが、その中から海水魚が生きていくうえで必要な成分はカリウム、ナトリウム、カルシウムなど数種類です。
この海水魚が生きていくために必要な成分数種類を淡水に加えてできた飼育水、それが好適環境水の正体です。
こちらの海水魚にとっての必須成分を山本准教授が発見し、それらを淡水に加えることで好適環境水を作り出すことに成功しました。
好適環境水を使用するメリット
好適環境水を活用することは、日本の水産業にとって大きなメリットをもたらします。
いくつか見ていきましょう。
海がない地域での陸上養殖が可能になる
好適環境水の最大の活用方法は陸上養殖です。
陸上養殖とは陸地に設置されたハコで魚を飼育する養殖方法で、主に水道水を用いて淡水魚が飼育されます。
ですが、好適環境水を活用することによって陸上養殖で海水魚の飼育が可能となり、海に面していない地域や山間地域でも海水魚を育てられるようになります。
食用としては淡水魚よりも海水魚の方が需要が高いので、「海に面しているかどうか」という環境に左右されることなくどの地域からも海水魚の供給が可能になれば、市場の供給量が安定します。
さらに「海がない地域での海水魚」や「空気の澄んだ山間地域での養殖魚」という話題性を生み出すことができ、地域ブランディングに寄与することもできます。
このように、好適環境水は陸上養殖の発展に大きく貢献することが可能となります。
養殖魚の成長が早い
海水魚は海水で生きていくために塩水を体外に排出する「浸透圧調整」を常にする必要があり、こちらに多くのエネルギーを要します。 ※詳細は「【浸透圧調整】なぜ海水魚は川で、淡水魚は海で生きられないのか」をご覧ください。
ですがなんと、好適環境水の中だと海水魚は浸透圧調整をする必要がなくなり、余分となったエネルギーを成長にまわすことができるのです。
実際、ウナギ・タイ・ヒラメなどでその効果は実証されており、多くの海水魚にも当てはまると推測されています。
成長が速いと供給量を増やすことができるので、ひいては食用魚の安定供給に繋がり市場の安定化をはかることができます。
魚が病気にかかりにくい
好適環境水で育てた養殖魚は病気にかかりにくいという利点もあります。
養殖魚も魚なので、ウイルス・細菌・寄生虫などの病気にかかります。
これらの病気は大きく分けて海水発生型と淡水発生型に分かれ、その病気への対策として医薬品の使用や異常を起こした魚の除去、飼育水の交換などが適時必要となります。
しかし、好適環境水は海水にも淡水にも属さないので、そもそも病原体が生きていけず魚が病気にかかるリスクを大きく低下させられるのです。
他にも、浸透圧の関係で病原体が破滅しているのではないかという予測もあり、どちらにせよ好適環境水は病気リスクが高くない飼育水ということになります。
「第三の水」とも称される好適環境水
海水と淡水に続く、第三の水(The Third Water)とも称される好適環境水。
上手く活用することで、水産業を盛り上がるだけでなく、例えば海水魚と淡水魚が同時に泳いでいる水槽が名物の水族館など、あらゆる活用方法が見込めます。
また、日本人は魚好きな人が多く、寿司や刺身のように文化としても深く根付いています。
漁業従事者の減少などで漁業は衰退していると言われますが、好適環境水のようなイノベーションがそれを食い止める未来も近いはずです。
今後、好適環境水がどのように活用されていくのか、目が離せません。
・好適環境水とは、海水魚と淡水魚を同時に飼育できる水のこと
・海水魚が生きていくために必要な成分数種類を淡水に加えてつくる
・好適環境水を活用するメリットは以下3つ
①海がない地域での陸上養殖が可能になる
②養殖魚の成長が早い
③魚が病気にかかりにくい