【俳句・季語で頻出】なぜ初鰹は江戸っ子に重宝されたのか?

カツオ 魚の雑学
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初鰹は、初物の中でも特に縁起物として江戸時代の人々に重宝されていました。

それを象徴する言葉が「初鰹は女房を質に入れてでも食え」です。

これを現代風に訳すと「女房を担保に借金してでも、初鰹は食べるべき」という意味になりますが、なぜここまで江戸っ子に初鰹は人気が高いのでしょうか?

そこで本記事では、江戸時代の日本人にとっての初鰹の価値と、それを象徴する当時の俳句を紹介します。

初鰹は江戸時代から続く日本の文化です。ぜひ最後までご覧ください。

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初鰹とは

初鰹の刺身

まず「初鰹とは何なのか」について解説します。

カツオには旬が一年に二回あり、そのうち春から初夏にかけて南から北に北上するカツオを「上り鰹」、秋ごろにかけて南下を始めるカツオを「戻り鰹」といいます。

このうち「初鰹」は4月上旬~6月上旬に捕れる上り鰹のことを指し、一年で最初に水揚げが始まるカツオであることからそう呼ばれています。

初鰹はエサを求めて北上を始めたばかりの時に水揚げされるため、脂のノリが少なくさっぱりとした味わいが特徴。また、赤身部分が多く弾力のある身をしています。

まとめると、初鰹は北上中のカツオ(上り鰹)の中でも4月上旬~6月上旬の早い時期に捕れるカツオと覚えておきましょう。

※初鰹と戻り鰹の違いについてはこちらをご覧ください

江戸時代の初物文化

江戸の町並み

それでは本題に入ります。

その季節にできた初めての魚や野菜などの食べ物を指す「初物」は古くから日本人に好まれており、初物を食べると寿命が75日間延びという言い伝えもあるほどです。

しかし、初物がブームを起こし一般庶民にまで浸透していったのは江戸時代中ごろといわれています。ブームが起こった理由は諸説ありますが、単に流行が来たという線が妥当でしょう。

ですが急速に起こったブームで需要が高まり、初物の価格が高騰。それゆえに初物=ぜいたく品と認識され始め、江戸時代には奢侈禁止令(しゃしきんしれい)や初物売買禁止令なども発令されています。

現在でも色濃く残る初物文化は、禁止せざるを得ないほどの熱狂的なブーム起こった江戸時代以降に定着してきたのです。

初鰹が初物の中でも人気が高い理由

鰹

このように江戸時代以降に盛んになった初物ですが、その中でも初鰹の人気が高い理由は単なる「語呂合わせ」です。

戦国時代のある夏の日、北条氏第2代目当主の北条氏綱が舟に乗っていたところ、突然一匹の魚が舟に飛び込んできました。

そこで氏綱がその魚の名前を聞くと周り人が「鰹です」と答え、「何もせずに勝つ魚(うお)が飛び込んできた」と喜んだそうです。

これ以降北条家でカツオは「勝利を呼び寄せる魚」とされ、戦の前には必ず縁起物として食べたり飾ったりするようになった、という逸話があります。

この話をきっかけに、カツオは「勝つ魚」という語呂合わせで、勝負の前に食べると勝つことができるゲン担ぎとして認識されるようになっていきました。

この逸話から、ただでさえ縁起物として扱われる初物に、この逸話から「勝つ魚」というゲン担ぎがカツオに加わったことによって、江戸時代の日本人にとって初鰹は初物の中でも人気が高いものとして扱われるようになったのです。

その証拠として、江戸時代中期(1776年)に発売された書籍『初物評判 福寿草』では江戸で人気の初物をランキング付けしており、堂々の第一位に初鰹は選ばれています

江戸時代の漁師は初鰹レースをしていた?

縁起の良い舟

また江戸時代では初鰹の中の初鰹ともいえる、「その年に一番最初に水揚げされた初鰹」に最も高い値段が付いていました

それゆえに、二番目以降に水揚げされる初鰹は値段が大幅に下落してしまいます。

そこで当時、初鰹を狙う漁師たちは一番最初に水揚げするために激しい競争をしていたようです。

一方で、一番最初の初鰹をどうしても食べたい庶民は「漁港で待っているよりも、舟で近くまで行った方が他の人よりも先に手に入れられる」と判断して、初鰹を受け取るために沖まで行くこともあったそう

このような話を聞くと、誰よりも早く初鰹を食べることに対する江戸っ子の執念が伺えますね。

季語で初鰹が登場する有名な俳句

俳句手帖

江戸時代における初鰹の人気の高さは、俳句にも顕著に現れます

そこで初鰹の季語と、特に有名な初鰹の俳句を3つ紹介します。

初鰹は初夏の季語

前提知識として、初鰹は初夏の季語に該当することを認識しておきましょう。

初鰹は桜が散り木々が青葉に変わり始める初夏に水揚げが始まることから、夏の始まりを告げる食べ物として浸透しました。

一方、単なる「鰹」となると暑さが勢いを増す夏の季語となり、当時から使い分けがされているので注意が必要です。

これを踏まえて、俳句を見ていきましょう。

目には青葉 山ほととぎす 初鰹 / 山口素堂

こちらは初鰹が登場する最も有名な句であるため、聞いたことある方も多いのではないでしょうか。

江戸時代に俳人である山口素堂が詠んだ句で、①目で見て美しい青葉、②耳で聞いて美しいほととぎす、③食べて美味しい初鰹、という春の終わりから初夏にかけて人々が好んでいたものを①視覚・②聴覚・③味覚の三点から表現しています

この句から、江戸時代の人々の味覚を満たすものとして初鰹は大変人気があったことが分かりますね。

また、”初”が付いているところが、ただの鰹ではなく初鰹であることの価値が見てとれます。

鎌倉を 生きて出けむ 初鰹 / 松尾芭蕉

最も有名な俳人と言っても過言ではない松尾芭蕉も初鰹に関する句を詠んでいます

この句は「鎌倉から出荷される時には、この初鰹も活き活きとしていたのだろう」という意味で、江戸っ子の心情を松尾芭蕉が代弁したものです。

この句からは、初鰹を目の前にしてウキウキしている人々の心が見てとれます。

まな板に 小判一枚 初鰹 / 宝井其角

こちらはシンプルに初鰹の価値を示した有名な俳句です。

当時の江戸では初鰹は非常に人気が高く、簡単に手に入れることができない嗜好品でした。そのため、まな板の上の初鰹の価値が小判一枚分に匹敵することを上手く表現しています。

「高くて庶民には手が出せないけどどうしても食べたい。」という心情から派生して、冒頭説明した「初鰹は女房を質に入れてでも食え」という言葉が生まれたのかもしれません。

初鰹を食べるなら高知県がおすすめ

鰹の藁焼きたたき

このように江戸時代から人気が高い初鰹ですが、現在も春~初夏の味覚として非常に好まれているのは変わりません。

初鰹を食べるならカツオの本場高知県がおすすめ。初鰹の刺身はもちろん、高知名物「藁焼きたたき」で食べる初鰹は絶品です。

高知県では特に美味しい時期を5月ごろに迎えゴールデンウイークと重なるので、その時期には初鰹を求める観光客でにぎわいます。

また初鰹の時期には全国発送を始める鮮魚店や水産会社も多いため、チェックしてみてはいかがでしょうか。

※高知県とカツオの関係性については「【魚の名産地】カツオといえば高知県!本場の藁焼きタタキは必食」もチェック!

 

ざっくりポイント
・初鰹とは、北上中のカツオ(上り鰹)の中でも4月上旬~6月上旬の早い時期に捕れるカツオのこと
・初物がブームを起こし一般庶民にまで浸透し、価格の高騰にまでなったのは江戸時代中期
・初物の中でも初鰹の人気が高い理由は「勝つ魚」という単なる語呂合わせ
・初鰹の中でも水揚げが一番早い初鰹を求めて、江戸時代の庶民と漁師は試行錯誤していた
・「目には青葉 山ほととぎす 初鰹」「鎌倉を 生きて出けむ 初鰹」「まな板に 小判一枚 初鰹」など、江戸時代の俳句には初鰹が多数登場する
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